三重県松阪市大石町、国道166号(和歌山街道)沿いの山裾に佇む 大石不動院 は、古くから「大石の不動さん」「青石不動さん」と呼ばれ、地域の信仰を静かに支えてきた古刹です。
弘法大師空海の開創と伝えられ、不動明王信仰を中心に、修験的な山岳信仰や水への畏敬と深く結びついてきました。
境内の背後には岩肌を伝って落ちる不動滝があり、清浄な水と岩場そのものが信仰の対象として受け継がれてきたことが、この地の成り立ちを物語っています。堂宇だけでなく、展望台や大師堂、天満宮、馬頭観音、さらにはムカデ蘭の自生地に至るまで、境内全体が祈りと自然の関係性の中に組み込まれている点も、大石不動院ならではの特徴です。
現在の本堂は近世以降に再建されたものですが、幾度もの修理と継承を経ながら、信仰の場としての役割は途切れることなく守られてきました。街道を行き交う人々、地域に暮らす人々、そして山と水に向き合ってきた時間——それらが重なり合うことで、この場所は「通過点」ではなく、「立ち止まり、手を合わせる場所」として存在し続けています。
大石不動院の由来|「青石不動明王」と400年を超える本堂
大石不動院の境内に立つと、まず感じられるのは「長く信仰されてきた場所特有の静けさ」です。本尊である不動明王は、伝承によれば弘法大師が当地を訪れた際、土地の青石に不動明王を刻み、安置したことに始まると伝えられています。青石不動明王という呼び名は、単なる素材の違いではなく、この地の自然そのものを信仰の拠り所としてきた歴史を示しています。
現在の本堂は、慶長7年(1602年)、松阪城主・古田重勝公によって再建されたものとされています。戦国の動乱が落ち着き、地域の秩序が再編されていく時代にあって、この地の信仰が守られ、受け継がれてきたことが分かります。建物としての本堂は一度きりの存在ではなく、時代ごとに手を入れられながら「祈りの場」として更新され続けてきました。
不動滝や堂宇を含む境内全体を、空からの記録映像で紹介。
近年では「平成の大修理・開創1200年事業」として、本堂や屋根、鐘楼堂などの修復が行われています。これは単なる保存工事ではなく、400年以上続いてきた信仰の空間を、次の時代へ確実に引き渡すための営みでもあります。大石不動院は、過去の遺産として固定された場所ではなく、今もなお人の手と祈りによって生き続けている宗教空間だと言えるでしょう。
県下唯一「国道から眺められる不動滝」
不動滝 は、大石不動院を象徴する存在であり、境内の信仰空間と国道166号(和歌山街道)とを直接つなぐ、非常に珍しい滝です。
車で行き交う人々のすぐ脇にありながら、岩肌を伝って絶えず水が落ちるその姿は、日常の風景の中に「祈りの場」が溶け込んでいることを静かに伝えています。
この滝は単なる景勝地ではなく、不動明王信仰と深く結びついた修行・浄化の場として位置づけられてきました。滝の周囲には、不動明王や役行者(修験道の祖)に由来する石祠や石碑が点在し、かつてこの地が山岳修行の一端を担っていたことをうかがわせます。
本堂や鐘楼、境内構成を立体的に記録した3Dモデルです。
春には桜、秋には紅葉が岩と水に重なり、季節ごとに異なる表情を見せますが、どの時期であっても共通して感じられるのは、「立ち止まって手を合わせたくなる空気」です。
国道から眺められるという特異な立地は、この滝を“観光のための風景”にとどめず、今もなお信仰が息づく場として開かれ続けていることの象徴とも言えるでしょう。
大師堂・大石稲荷、そして「大日堂」の物語
境内には、大師堂や大石稲荷も。大師堂は天保4年(1833年)、飯南郡深野村(現・飯南町深野)の大石不動院の境内は、不動明王信仰だけで完結する空間ではありません。
ここには 弘法大師を祀る大師堂、生活と結びついた信仰を今に伝える 大石稲荷、そして近年新たに加わった 大日堂 が並び立ち、時代ごとに積み重ねられてきた信仰の層を見ることができます。
大師堂は、天保4年(1833年)、現在の松阪市飯南町深野の庄屋・野口一之進を先達として建立されたと伝えられています。
山中の修行地でありながら、地域の有力者や人々の信仰によって支えられてきたこの寺が、「祈りの場」として生活と深く結びついていたことを物語る存在です。
一方、大石稲荷は、五穀豊穣や家内安全といった身近な願いを受け止める社として、不動信仰とは異なる角度から人々の信仰を集めてきました。
厳しい修行の場と、暮らしに寄り添う信仰が同じ境内に共存している点も、この寺の大きな特徴と言えるでしょう。
堂宇・自然・信仰の場が点在する境内全体を、360°パノラマで記録。
そして近年、新たな見どころとして誕生したのが 大日堂 です。
平成27年(2015年)に大日如来像が発見されたことを契機に、平成29年(2017年)には堂宇が完成し、落慶法要が営まれました。
古代から続く信仰の地に、現代の人々の手によって新たな祈りの場が加えられたことは、この寺が「過去の遺産」ではなく、今も信仰が更新され続けている場所であることを示しています。
古い歴史と新しい信仰が同じ境内で重なり合う──
それこそが、大石不動院という寺の奥行きであり、静かな魅力なのです。
合格祈願の天満宮と、200mの石段の先にある展望台
本堂右手の石段を上った先に天満宮があり、菅原道真公をお祀りしています。天保4年(1833年)に太宰府天満宮からご神体の一部を拝領し安置した、と紹介されています。さらに平成14年(2002年)11月に再建されたとのこと。受験シーズンには合格祈願の参拝者も多いそうです。
そして、境内の階段を約200m登ると展望台へ。火の神・秋葉大権現、水と海の神・金毘羅大明神が鎮座し、除災や地域の安全を願う参拝者が訪れるとされています。
また「息を切らさず一気に登ると5歳若返る」という言い伝えも紹介されています。
国の天然記念物「ムカデ蘭」群落
大石不動院には、ムカデラン(ムカデ蘭)群落もあります。公式サイトでは、全国的にも珍しく「池の岩面に群落しているのは此処だけ」とされ、昭和2年(1927年)に国の天然記念物に指定と紹介されています。
ご協力への御礼
本記録の制作にあたり、撮影ならびに公開に関してご理解・ご協力を賜りました 大石不動院の皆さまに、心より御礼申し上げます。
「ときわたり」では、寺院や信仰の場を観光のためではなく、未来へ引き継ぐ記録として丁寧に残していくことを大切にしています。
大石不動院へのアクセス
- 所在地:三重県松阪市大石町4番地
- 国道166号線(三重交通「不動前」バス停)
- TEL:0598-34-0180
バス:松阪駅から飯高方面行き等で「不動前」下車。
車:松阪ICまたは勢和多気ICから国道166号方面へ(目安15分程度の記載)。








